2008年1月21日月曜日

海水淡水化1:基礎知識


クイーンズランド州:節水目標一人一日:140リッター


海水淡水化1:基礎知識
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 2002年にヨーロッパ大洪水が発生してチェコの世界遺産にも登録された古都プラハの建造物が水没したことは有名なニュースとなりました。
 また、2005年にはハリケーン・カトリーナがアメリカ本土を襲い、アメリカ大統領はルイジアナ州ニューオリンズ市に非難命令を出し、その数48万人であったといいます。
 ニューオリンズは水没し、今なをその機能を完全に回復していません。

 日本では昨今、雨量が異常に多く、Wikipediaの「集中豪雨」でみると1998年の「98高知豪雨」から突然現れはじめ、毎年のように続いている。
 「気象庁が命名した豪雨・豪雪一覧」では2004年、2005年、2006年にあり、豪雨だけでなく冬場は「こんな大雪、生まれてはじめて」という豪雪が2005年暮れから2006年はじめにかけて発生しています。

 その反面、四国では雨不足の干ばつが続き、四国の水甕である早明浦(さめうら)ダムの貯水率がついに0%にとどくの間近かというニュースもありました。
 これは運良く台風の襲来で解消されたようですが。

 お隣の中国の干ばつは規模がすこぶる大きく、9千万の人と7百頭の家畜の飲料水の確保が困難な状況にあるといわれています。

 南半球のオーストラリアもまた、観測史上最大の干ばつに見舞われています。
 連邦政府、州政府も日々その対策に追われており、一部の州では下水処理した水を水道に混入する政策を、州首相の強権で実行に移しています。
 この案は他州では住民投票で否決されているものですが、住民がなにを言おうと今はなりふりかまわず実行するしかない、という土壇場まで追い詰められているといった状況になっているということです。

 その模様を下のサイトから一部をコピーさせてもらいます。

○ 環境法令ウオッチング
★ http://blog.goo.ne.jp/o-gyousei/e/0707461a240c400ad017c3c29801

----------☆☆ 地球温暖化:オーストラリアの干ばつ ☆☆----------
2007年1月31日
 国連環境計画(UNEP)は、 2000~2005年の間に観測された氷河融解のスピードが、1980年代の3倍に達した、とするデータを公表しました。

 データのもととなった調査によると、欧州アルプスなど世界の9山脈、約30か所の氷河の厚さは、平均で年約60センチ減少しており、この数値は1990年代の1.6倍、1980年代の3 倍のペースに相当するとのことです。
 上記の調査結果は地球温暖化の進展を示唆するものといえますが、その影響はたとえば次のようなかたちでもあらわれはじめています。

 「干ばつに苦しむオーストラリア北東部クインズランド州政府は28日、下水を飲料用にリサイクル処理した水を同州の一部で2008年から使用すると発表した」(平成19年1月29日読売新聞)。
 オーストラリアでは、ここ数年干ばつが続き、慢性的な水不足に晒されていました。
 その原因は、地球温暖化の影響であるとされています。
 それを裏付ける数値として、『オーストラリアは気温も世界平均と比べて速いペースで上昇しており、最も暑い年の記録上位20のうち15は1980年以降の年で占められている』との報告がなされています。

 報道されているクインズランド州では、「下水再利用」の是非を問う住民投票も取りやめるとのことで、切羽詰った状況がうかがえます。

 水不足の対策としては、たとえば、「海水淡水化」があります。
 海水淡水化は文字通り、海水を処理して淡水を作りだすもので、中東諸国などで用いられている方法です。

 しかし、海水淡水化には、多量のエネルギーを投入する必要があったり、プラントの整備に多額なコストが発生したりします。ニュースにある下水のリサイクルに比べれば、心理的には海水淡水化のほうが受け入れられやすいと思いますが、クインズランド州の場合は、それを選択できない事情があるのでしょう。


 地球温暖化は別の回に譲ずり、今回は「海水淡水化」について電子網を検索してみます。
 「海水淡水化」だと十万件になるが、「世界の海水淡水化」「海外の海水淡水化」「外国の海水淡水化」「オーストラリアの海水淡水化」で検索するとそれぞれ500件前後出てくる。
 「日本の海水淡水化」も同様である。

 まず、『海水淡水化の現状と原子力利用の課題 -世界的水不足の解消をめざして-』という調査報告書があります。
 「社団法人 日本原子力産業協会」の「海水の淡水化に関する検討会」が平成18年(2006年)に出したレポートである。
 [PDF]なので必要なところを抜粋タイプしながら、これを中心に見ていくことにします。


○ 海水淡水化の現状と原子力利用の課題 ★ http://www.jaif.or.jp/ja/news/2006/desalination_report.pdf

----------☆☆ 海水淡水化の現状と原子力利用の課題 ☆☆----------

 1950年以降の「水需要増加率」は「人口増加率」のほぼ3倍となっている。

 このまま推移すると2025年には世界の約半数の国と地域が水不足に陥ると予想されている。
 こうした状況から、各国において海水から真水を精製し、生活用水や農耕行用水として利用する「海水淡水化」の取り組みが行われているが、海水淡水化のニーズは今後とも、中東諸国を中心に高まっていくことが予想されている。

 原子力利用による海水淡水化については近年では地球温暖化問題等の観点から再評価され、一部の国では原子炉を使った淡水化技術実証試験も行われ、その導入に向けた動きが始まっている。


 国連レポートによると2025年の推定世界人口は75億人でその50%が水不足に直面する。
 それによるとアラブとアフリカの一部が「水不足」となる。
 また、韓国、バングラデシュ、インド、アフガニスタン、ペルーとアフリカの一部が水不足予備軍になるという。

 我々が水不足を実感として捉えられるのは家庭水道の使用量に制限が加わったときです。
 一日一人の使用量を比較してみると、ニューヨークでは「517リッター(2003)」です。
 これに対して東京では水道局のホームページ「わたしたちの水道」によると「248リッター」である。
 またマンション等の屋上に設置されている受水タンクを設計するさいの容量計算基準では、標準家庭の1日の使用水量は1人「230リッター」となっています。

 上に掲げたパンフレットのように、水不足が深刻な上記のオーストラリアのクインズランド州では節水目標を一人一日「140リッター」と定めている。
 東京の60%くらいにおさえようとしていることになる。

 地球の3割が陸で、7割が水である。
 その「97.5%」が海水で、残りの「2.5%が真水」である。
 さらにその真水の7割は南極大陸やグリーンランドの氷河であり、残りの大半は土壌中に含まれる水であるという。
 つまるところ、人が利用できる水とは、真水の中の「0.007%」に過ぎないという。
 よって新規の水を得ようとすれば海水の淡水化という問題が大きなテーマになる。

 覚えておられる方も多いと思うが、「イザヤ・ベンダサン」という著名な作家がいた。
 「日本人とユダヤ人」という本を書いた人である。
 日本人だという説が有力ですが、「日本人は安全と水がタダだと思っている」という言葉で有名になったユダヤ人(?)です。



 真水の入手の難しい湾岸諸国やイスラエルなどは国策として「すべての水」を海水から作り出しています。
 海水から取り出した水は「エネルギーの瓶詰め」といわれるほどの代物です。
 石油タダという産油国である湾岸諸国は問題ないがイスラエルは石油が出ない。
 さらにイスラエルは周囲の産油国がイスラム教に対してユダヤ教で常に敵対的関係の中に置かれている。
 そこから石油を買い、この「エネルギーの瓶詰め」を作りだすとなれば、コストはうなぎのぼりで、まさに「水とはダイヤモンドほどの価値なもの」になる。
 イスラエルは産油国とは違った方式で海水の淡水化を実行している。

 Wikipediaを抜粋してみよう。

 海水淡水化(かいすいたんすいか)とは、海水を処理して淡水(真水)を作り出すこと、及びその設備を指す。
 海水には「約3.5%」の塩分が含まれており、そのままでは飲用に適さない。
 飲用水とするためには塩分濃度を少なくとも「0.05%以下」にまで落す必要がある。
 海水淡水化プロセスの基本は海水からの「脱塩処理」である。
 実用化されている海水淡水化方式は「多段フラッシュ」「逆浸透法」の二方式である。

[ 多段フラッシュ]
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 海水を熱して蒸発(フラッシュ)させ、再び冷やして真水にする、つまり海水を蒸留して淡水を作り出す方式である。
 大量の淡水を作り出すことができ、海水の品質を問わないが、多量のエネルギーを投入する必要がある。
 エネルギー資源に余裕のある中東の産油国に多く採用されており、多くの国々では飲用水のほとんどをこれら造水プラントで生産している。
 サウジアラビアの海水淡水化公団では多段フラッシュ法の大型海水淡水化プラントを多数稼動させている。
 例えば1981年に稼動したジェッダNo.4プラントの生産水量は「日量22万トン」であり、2005年9月現在の世界 最大は同公団がアシュベールに持つ「日量100万トン」のものである。
 サウジアラビアではこれらを工業用水や一般家庭用水の主水源としており、更に余剰の淡水を農業用水としても利用している。

[ 逆浸透法]
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 海水を圧力をかけて逆浸透膜と呼ばれるろ過膜の一種に通し、海水の塩分を濃縮して捨て、淡水を漉し出す方式である。
 フラッシュ法よりエネルギー効率に優れている反面、浸透膜が海水中の微生物や析出物で目詰まりしないよう入念に前処理する必要があること、整備にコストがかかること、などの難点がある。
 1990年代までは比較的小規模のものが多かった。
 しかし、最近の日量1万トンを超える大型プラントは、世界的にみても大部分がこの形式で建設されている。
 2005年10月現在、世界最大の逆浸透法海水淡水化プラントはイスラエルのアシュケロンにあり、「日量33万トン」の淡水を工業用や家庭用に供給している。
 他に中東地域、地中海沿岸、シンガポールなどに大型プラントが多い。

 日本最大のものは福岡市東区にあり、淡水供給量は「日量5万トン」である。
 尚2006年現在、世界で海水淡水化用の逆浸透膜を最も多く製造している国は日本であると推定されているが、生産国が日米欧以外の国々に拡大し、それらの国々での統計データが不明であるため、必ずしも正確ではない。


 まとめるとこうなる。

 エネルギー無尽蔵な産油国と、非産油国とでは淡水化の方式が異なる。
 エネルギー事情の悪い地域では膜浸透方式が採用され、石油価格の高騰とともにこの方式が世界の主流になりつつある。
 そして日本でも淡水化が実行されている。


 エネルギー無尽蔵の産油国の淡水化は論の対象にはならないので、イスラエルを見てみる。
 「日量33万トン」とは、いったいどのくらいなものか。
 一般の分かりやすさ表現では、建物・場所などの面積や大量の物の体積を表現する際に「東京ドーム何個分」という表現が使われることがありますので、これを利用してみます。

 東京ドームの容積は「1,240,000立方メートル」であり、1m3を1トンとすると「1,240,000トン」になる。

 とすると、33万トンとは東京ドームの26.6%、「約1/4」個分になる。
 すなわち、毎日、東京ドームの1/4杯分の海水が真水に変換され、供給されていることになる。
 通常、先に述べたようにオーストラリアでの節水目標は一人一日「140リッター」である。
 報告書によると農業用水、工業用水、それに生活用水の水使用量の割合は「71%:20%:9%」という。
 生活用水の11倍が一人当たりの水使用量になる。
 計算すると33万トンという水は「21万人」の人口を養えることになる。

 330,000トン/(140リッター×11倍)= 214,286人

 ちなみにイスラエルの人口は「650万人」であり、その3%を養えることになる。
 農業用水を除くと「66万人」で10人のうちの1人に供給可能になる。

 日本の農業は水田耕作なので、世界の農業用水量とは比較できない。
 それを除いて(都市人口として限定)福岡市の日量「5万トン」をみてみる。
 工業用水を生活用水の倍とし、一人当たりの使用量を「230リッター」とすると、「7万人」に水の供給が可能になる。
 生活用水だけなら「約22万人」に供給可能になる。
 なを、2006年の福岡市の人口は「136万人」である。

 50,000トン/(230リッター×3倍)= 72,464人

 こうしてみると、海水淡水化というのはひじょうに重要なテーマであることが分かってくる。
 調査報告書へもどろう。


 現在、日本で最大規模の淡水化施設は2005年3月完成した福岡地区水道企業団海の中道奈多海水淡水化センター「日量5万トン」と、1996年2月供用開始の企業局海水淡水化センター「日量4万トン」の逆浸透法海水淡水化プラントが代表的なものである。
 最近の20年間に日本国内に設置された淡水化プラントの用途をみると、工業用が73%、生活用水用が22%、発電用が5%となっている。
 工業用では、半導体洗浄用の超純水や発電所などのボイラ用純水が大きく、全淡水化施設の60%を占めている。


 ちなみに、世界での用途をみると日本とはまるで逆で生活用が65%、工業用が24%、農業用は1%しか使われていない。
 農業用に使えるほど水は「安価ではない」ということである。
 報告書を続ける。


 2003年末現在までの世界の施設容量合計は日量「3,700万トン」である。
 2005年から2015年までに新たな施設容量の増加は、中東湾岸地域と地中海地域が、それぞれ日量「500万トン」からそれ以上の施設が建設予想されている。
 伸び率では地中海沿岸が最も多く「180%」の増加、中東湾岸諸国が「95%」の増加が予想される。
 産油国を除いた2015年までの増加予測はイスラエル「135万トン」、スペイン「104万トン」、アメリカ「94万トン」、そして中国が「40万トン」である。
 淡水化プラントの記録をみると、世界最初の淡水化プラントは、1944年にイギリスに設置されている。
 現在、世界最大の海水淡水化プラントは上記のサウジアラビアのものであるが、逆浸透法のものでは上記のイスラエルのものが最大である。
 淡水化の需要は過去30年間で12倍になり、2001年には日量「3,000万トン」になり、2003年末の集計では「3,700万トン」を越えた。
 近年では10%以上の割合で伸びており、2080年には「5,800万トン」になるという予測もある。
 とくに「逆浸透法」が急速に増大しており、2003年現在、逆浸透法が蒸発法を追い越し、全体の「51%」に達している。




<つづく>




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