2008年1月23日水曜日

海水淡水化2:淡水化コスト


池島全景:長崎県産業観光情報サイトより


海水淡水化2:淡水化コスト
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 「軍艦島」をご存知でしょう。

 長崎にあった三菱の石炭採掘島、すなわち炭鉱の島です。
 小さな島に5千人からの人が住み、人口密度世界一を記録しました。
 その密度は東京の9倍もあったといいます。
 コンクリートの密集中層住宅が立ち並んでいたため、それが薄もやの中では戦艦「土佐」の形に似ていることからこの名前がつきました。
 しかし、1974年に石炭から石油へというエネルギー変換のために閉山し、無人島になりました。
 有名な島ですので検索エンジンでは「160,000件」と出てきます。

 その後、人口密度世界一を誇ったのが松島炭鉱の「池島炭鉱」です。
 役所関係の仕事で30年ほど前に訪れたことがあります。
 その当時、軍艦島が無人島と化していましたので、ここが人口密度世界一になっていました。
 地元の人は池島とは言わずに「貝島」といっていたように記憶しています。
 周囲4キロの島、従業員は当時で2,500人ほど。

 石炭の採掘には、まず縦坑を堀り、そこから横坑を掘っていく。
 採掘場所は2キロ、3キロ先の「海の下」になります。
 延べ坑道の長さは「96km」という。
 「入ってみますか」と言われ、「いや、時間がないので」と断った思い出があります。
 ここで採掘された石炭はほぼ製鉄用に使われる、と聞いた覚えがあります。
 しかし、この島もエネルギー革命には勝てず、2001年に閉山されます。

 この軍艦島や池島の「海底掘削技術」というのは日本独自のもので、ひじょうにレベルの高いものです。
 それが後の「青函トンネル」や「ユーロトンネル」、そして最近の「東京湾海底トンネル」に生かされてゆきます。
 極言すれば、青函トンネルもユーロトンネルもこの石炭採掘技術があったからこそできたといっても過言ではないのです。

 Wikipediaには「閉山後に炭鉱技術海外移転事業が始められ、大規模な鉱山事故が頻発する中国をはじめとするアジア諸国などより事業継続の要望が強く、現在もインドネシア、ベトナム人など年間約60名が技術伝承のため入国し働いている」とありますので、今なを技術移転に活躍しているということになります。

 池島炭鉱のホームページは下記になります。

○ 松島炭鉱(株)池島炭鉱
★ http://coal-mania.hp.infoseek.co.jp/ikeshima.htm

 サイトを見ていたら、現在ここは、なんとなんとヘッドライトのついたヘルメットをかぶって坑道の中まで見学することができるようになっています。

○ 長崎県産業観光情報サイト「ながさき 見・学・知」
★ http://www.nagasaki-tabinet.com/sangyo/shisetu/shisetu.php?s_id=40


 何で海水淡水化の話が池島炭鉱にとんでしまったかというと、そのときここでコンテナのようなものを見たのです。
 それに金属プレートが貼ってあって「造水機」と印字されていました。
 「造水機とはなんぞや」。
 下段には製品番号といっしょに「笹倉製作所」とありました。
 分野が違うのでまるで知らぬ会社でした。
 話を聞くと、この池島ではすべての水は海水から作り出し、本土からは運んでいないということでした。
 これはまるで知らないことでした。

 というのはそのときの池島のイメージは、「水」は向こう岸から運んでくるため十分使えず、日常ではシャワー程度で済ます、というものでした。
 もし、風呂に入りたかったら、週に一度ほど船で対岸へいくことになる、という発想でした。  ところが打ち合わせて会う人みな、こざっぱりしたまるで石炭粉の匂いのない方たちです。
 鼻の穴の奥までまで真っ黒になった坑夫たちが海の底から上がってきたとき、ゆっくりと湯船に浸かって温まる姿など想像もできなかったのです。

 思考の中に、海水から真水を生成するのはエネルギーコストが高すぎ、現実的に不可能であるという信念がこびりついていました。
 よくよく考えてみれば、この島、石炭の上にあるようなものでエネルギーはタダという環境を持っていたのです。
 しかし、その頃、いくらエネルギー「タダ」とはいえ、淡水化プラントが現実の話として稼動しているとは、まるで及びもつかなかったのです。

 「海水淡水化の現状と原子力利用の課題 」調査報告書を見てみましょう。


 日本国内で最初に淡水化施設を導入したのは長崎の松島炭鉱池島鉱業所である。
 1967年に生産水量「2,650トン」の蒸発法多段フラッシュ法プラントが設置された。
 前年に日本メーカーが海外で初めてサウジアラビアに納入した海水淡水化プラントと同型のものである。


 つまり長崎の炭鉱島で見たのは、日本で始めて実用化された海水淡水化装置の一部だったということになります。
 「2,650トン」とはどのくらいの量でしょうか。
 東京ドームの「約1/500」にあたります。
 それが日本ではじめて設置された造水機の能力ということになります。

 「笹倉製作所」というのを検索してみました。
 ありました。
 現在は名前が変わり「株式会社 ササクラ」です。

○ 株式会社 ササクラ ★ http://www.sasakura.co.jp/
----------☆☆ 株式会社 ササクラ ☆☆----------

1966年(昭和41年)6月
アラビア石油向け海水淡水化装置(2,300トン/日)を輸出
1966年(昭和41年)9月
松島炭鉱池島鉱業所へわが国初の陸上用海水淡水化装置(2,650トン/日)を納入
1967年(昭和42年)1月
クウェート国政府から当時世界最大の海水淡水化プラント(36,400トン/日)を受注
1971年(昭和46年)5月
逆浸透式水処理装置の製造開始


 一般的にほとんど名の知られていないこの会社は、世界の海水淡水化メーカーではトップクラスにあるようです。
 他には、日立、クリタ、三菱、石川島播磨、オルガノといった著名な会社が名を連ねています。
 この分野におけるこれまでの日本のメーカーの実績はアメリカについで2位になります。
 方式別だと蒸発法では1位、逆浸透法ではアメリカが1位で、日本が2位になっています。
 しかしながら最近5年間では5位というレベルに落ちており、イタリア、フランス、スペインといった地中海勢が上位に食い込み、それを将来水不足が懸念されている韓国が激しく追い上げている、といった状況のようです。

 ところで当然のことながら「エネルギーのビン詰め」といわれる「海水淡水化水」とは「いったい、いくらくらいのものなのか」という疑問が出てきます。
 この調査報告書にも正確なデータは載っていませんが、大筋のところが記載されています。

 先の報告書を見てみます。

 技術革新の目的は、淡水化コストの低減と運転・維持管理の容易さを求めて行われている。
 1980年代には、大型海水淡水化プラントによる淡水化コストは1m3あたり数ドルしていた。
 それが1ドル近くとなり、最近では1ドル(USドル)を切っている。
 このくらいになると、場合によっては天然水を長距離輸送したり、立地条件の悪いダムを建設するより有利になる。
 また開発途上国でも産業用に利用しやすくなり、ここ10年間以上の淡水化プラントの建設が毎年10%以上の成長を続けている理由である。


 「1m3=1トン」とは東京都でみてみると、家族4人の標準世帯が1日に使用する量にほぼ相当します。
 その価格が1ドル(120円)になります。
 もちろんこれは原価ですから、製品価格をその「3倍」と見積もって計算してみましょう。
 とすると下記の式より「水道料:年間13万円」、月1万1千円ということになります。

 (1人1日248リッター×4人/1000リッター)×365日×3倍×1ドル120円=130,349円/年  

 イザヤ・ベンダサンは「日本人は水がタダだと思っている」と言っていましたが、水は買うものであるという考えに立てば、この価格、どうでしょう。
 検索エンジンを走らせると、2,3のデータを拾うことができます。

 例えば、これ。

○ はてなブックマーク - 西半球最大の逆浸透法海水淡水化プラント ★ http://www.toray.co.jp/news/water/nr031019.html

----------☆☆ トリニダード・トバコの逆浸透法海水淡水化プラント ☆☆----------
2003年10月
  東レ(株)は、カリブ海にある島国トリニダード・トバコにある西半球最大の逆浸透法海水淡水化プラントに逆浸透膜(RO膜)を納入しており、現在世界で稼働中の逆浸透法を使った海水淡水化プラントの中で、最も安価な1m3あたり「$0.707(85円)」という造水コストを実現しました(取水からの一貫プラントベース)。


 あるいはこれ。

○ [PDF]ラッフルズ・プレイス・レター ★ http://www.north-japan.org/images/singapore/report_20.pdf

----------☆☆ シンガポールの水事情 ☆☆----------
2005年11月
海水の淡水化は、1990年代には1m3当たり「210円~245円」と言われていましたが、このたびの販売価格は、「55円」と世界でも最も安価な海水の淡水化といわれています。
 これを可能にしているのは、逆浸透膜などの世界的な技術開発の進展と、効率的な淡水化の可能な、水温が高く、かつ塩分濃度が比較的低い海水に恵まれていることが上げられます。


 条件にもよるようですが、大概のところ「1m3=100円」と見込んで、それを越えることはまずなさそうです。
 あくまでこれは原価で、製品価格はその3倍から4倍ということになるでしょう。
 おそらく、没頭の「オーストラリアの干ばつ」の方もこれを踏まえて、「なぜ、クインズランド州は海水淡水化をしないのだろうか」という疑問を提示したのではないかと思います。

 コストについては詳細なデータがないので、残念ながら正確なことはいえません。
 『(取水からの一貫プラントベース)』とはどういう内容を指すのか、海水を取水して淡水化してプラントから送り出すところまでの「造水費用」であるのか、それともプラント本体の建設費用をも含んだコストなのか、素人には分かりかねるところです。

 前者なら淡水化コストに建設費用は含まれないことになり、後者ならプラントの「償却期限」があるはずであり、20年くらいを想定しているのかと思います。
 社会インフラの償却期限は30年ということもありうる。
 プラント建設費の水道料にかかる費用を計算してみます。
 次回で最も新しい海水淡水化プラントとなる西オーストラリアの計画が出てきますので、そこからデータを引っ張ってみます。


 2007年に供給を始めた「日量12.3万トン」のプラントの建設費用が4億ドル(ASドル)である。
 また、2010年から供給予定の「日量27.4万トン」のプラントの予算が9億5千万ドルである。


 つまり、合わせて「日量40万トン」のプラントの建設費用の総額は13億5千万ドルということになる。
 これは年間水量「1億4500万トン」で、プラントの償却年数を20年と見積もると、20年間で作られる水の量は「29億トン」になる。

 13億5000万ドル/29億0000万トン=0.47ドル/1トン

 償却期間の20年間は「1トン当たり50円」ほどが上乗せされる、ということになる(借り入れ利息などは考慮していません)。
 「海水の淡水化に関する検討会」の調査報告書のウオッチングはこれで終了とします。

 次は没頭のサイトにあった「オーストラリアの干ばつ対策」について見ていきたいと思います。


<つづく>


注: 「コスト計算」は素人が電卓をはじいたもので、解釈その他に間違いがあるかもしれませんので、あらかじめお断りしておきます。



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