2008年1月27日日曜日
海水淡水化4:シドニーとブリスベン
● 漏水チェックの奨励:「水を大切に」
海水淡水化4:シドニーとブリスベン
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没頭に挙げたコメントを再録してみます。
『
報道されているクインズランド州では、「下水再利用」の是非を問う住民投票も取りやめるとのことで、切羽詰った状況がうかがえます。
しかし、海水淡水化には、多量のエネルギーを投入する必要があったり、プラントの整備に多額なコストが発生したりします。
ニュースにある下水のリサイクルに比べれば、心理的には海水淡水化のほうが受け入れられやすいと思いますが、クインズランド州の場合は、それを選択できない事情があるのでしょう。
』
その事情であるが、推論してみると2つあるのではないかと思われます。
一つは海岸線の風光明媚を歌い文句に観光産業が成立していることである。
ブリスベンを中心に南にゴールドコースト、北にサンシャインコーストがひろがり、年間の観光客数は膨大なものになり、クインズランドの産業の柱になっている。
その海岸に不細工な淡水化施設を建設するわけにはゆかない。
ゴールドコーストの隣はニューサウスウエールズ州になるため、もしプラントを造るとしたらサンシャインコーストのはるか向こうしかない。あまりにも遠すぎる。
二つめは、ここは環境保護団体の力のひじょうに強い、ということがある。
シドニーは猛烈な反対で計画が一時棚上げになり、水源地の貯水量が30%を切るようなことになるまで検討しないという約束事がありましたが、2007年になって州政府はこれを反古にして、建設計画を推進したという経緯があります。
クインズランドでは過去にモーターウエイを建設するさいに、その路線上にコアラの生息地があり、州政府はこれを保護して別の保護地へ移転させる計画を提示したが、強硬な反対にあい、このため次の選挙で州政府がひっくり返り、野党が政権を握ることとなり、モーターウエイ路線の変更が行われたという経緯があります。
クインズランドでは「環境保護」は圧倒的な力をもっており、その顔色を伺いながらの政治をするといった状況のようです。
このようなことで、ブリスベンでは海水淡水化計画は実行されないのではないかと思います。
しかし、これは絶対的な説得力を持っていない。
パースは人口150万人でブリスベンとそこそこ似ている。
そのパースは150キロ遠方にプラントを作り、パイプラインで引っ張ってきて、上水道につなげようとしている。
距離は説得力にはならない。
それだけの距離を見ればブリスベンでもプラント候補地はあるはずである。
環境保護団体の圧力も、絶対的ではない。
シドニーでは市民との約束を反古にしてまで強行している。
道路路線のように代替案がいくらでもあるようなら別だが、日常に欠かすことのできない水となれば、話は別のものである。
生活が脅かされるともなれば、環境がどうのこうのとは言っておれなくなるはずである。
パースは日量40万トン造り、水道の1/3を海水淡水化水に置き換えようとしている。
シドニーは日量25万トン、メルボルンは日量41万トンである。
それに対してブリスベンはたった日量6.6万トンしかない。
ちなみに、この建設費は17億ドル(約1700億円)です。
シドニーが20億ドル、メルボルンが31億ドルです。
たった日量6.6万トンなのにシドニーにひけをとってはいない。
もしこの金額をシドニーに当てはめると日量21万トンが供給できることになる。
しかし、ブリスベンはその1/3でしかない。
「どうにも理解しづらい。」
シドニーとブリスベンを比較してみたいと思います。
シドニーの人口は「430万人」、ブリスベンの人口は「180万人」で、シドニーはブリスベンの2.5倍ほどの人口を持っています。
シドニーの水源ですが、郊外のブラギラング湖(ワラガンバ・ダム)は面積「75km2」で、体積「2km3」です。
この大きさがどのくらいかというと、面積で十和田湖の1.2倍ある。
体積で半分である。
これは十和田湖の水深が70mとひじょうに深いためである。
単純にいうと、大都市のたった40kmほどに深さが半分ほどの十和田湖があるということになる。
とんでもない街ですね。
雨さえ降ってくれれば、底抜けに恵まれた環境といえる。
だからこそ個人住宅にプールなどがもてるのです。
シドニーはここから80%の給水を行っています。
ではブリスベンはどうでしょう。
同じようにすぐそばに、ワイバンホー湖とサマセット湖という2つの湖を持っています。
2つあわせた面積は「150km2」で、シドニーのブラギラング湖の2倍。
ただ平均水深が浅いため、体積はブラギラング湖より小さくなり、3/4ほどの「1.5km3」である。
ちなみに霞ヶ浦の面積の2/3の大きさ、体積は1.8倍である。これは霞ヶ浦の平均水深が4mほどとひじょうに浅いためである。
ブリスベンの主水源はこの2つである。ここも恵まれ過ぎている。
きっとオーストラリア人も「水はタダだ」と思っているのではないでしょうか。
これを人口比でくらべれば、どうなるか。
シドニー:
2km3/(430万人×80%)=2/344=5.8
ブリスベン:
1.5km3/180万人=1.5/180=8.3
ブリスベンはシドニーより50%アップの有利な条件の水源をもっていることになります。
ブリスベンとは輪をかけてとんでもない街ですね。
イスラエル人が激怒しそうです。
シドニーの将来造水量は50万トン、人口を2.5倍とすれば、ブリスベンは日量「20万トン」の水を生み出さないといけないことになります。
有利な水源を顧慮に入れれば、10万トンもあれば「何とかなる」という判断もありうるということになります。
これは想定ですが、この有利さがブリスベンをして海水淡水化をやめ、「下水再生飲料水化」に走らせたのではないかと思うのです。
「日豪プレス」より一部を引用します。
『
現在、ブリスベン川に放流されてモートン湾に流れ込んでいる処理済下水の大部分を再利用することになっている。
高度処理水のかなりの部分が2つの「石炭火力発電所」の冷却水として用いられる。
余裕があれば農業用水に充てられる。
「処理水の残り」は、ブリスベンの飲料水貯水池のワイバンホー湖に放流される。
プロジェクトは2期に分けて建設中である。
』
つまり、簡単にいうとブリスベンの「下水再生飲料水化」とは大きなプロジェクトの"おまけ"なのです。
予算の半分以上は石炭火力発電所の冷却水を確保するために使われるわけです。
オーストラリアは世界で最も良質の石炭を産出しますので、信じられないと思いますが火力発電所の大半が「石炭発電」です。
一部には自前の天然ガスで発電するところもありますが、大掛かりな石油発電はありません。
石油を使うくらいなら天然ガスの方がコストの低減になります。
原子力発電所は実験用にあるだけです。
とはいえオーストラリアはウランも輸出していますし、インドネシア政府との取り決めを引き継いだチモール沖では石油採掘もしています。
オーストラリアとは「エネルギー大国」なのです。
京都議定書への参加を強固に拒んでいた背景には、この自前のエネルギーに対する保護政策があります。
さらに引用を続けます。
『
第2期、2008年末までには、ラゲッジ・ポイントとギブソン・アイランドの既存の汚水処理施設に並んで建設される2カ所の新規高度汚水処理プラントが、大量の再処理水をワイバンホー湖に放流する。
』
6カ所の汚水処理施設のうちの4カ所の処理水は冷却用に使われ、余りが農業用にまわされる。
残りの2カ所の処理水が飲料水とするためワイバンホー湖に放流され、それが日量6.6万トンということになります。
下水道量は日本でもそうですが、上水道量と同じと考えられています。
庭に水撒きしたり、川に流さないかぎり、使った水は下水配管を通して戻っていくと考えられています。
つまり水道量とリターン量は一致するわけです。
よって、下水を上手に汚水処理し、それを水道に回すことができれば、「水の永久循環」ができると考えられています。つまり、原則的に水不足などというのは生活用水に関してはありえないことになります。
ご存知のように宇宙船のような場合はこれが実際に行われています。
これまで見てきたように、ブリスベンはひじょうに有利な水源をもっています。
これに全排水のリサイクル活用システムが加われば、上水道管の流水量は常に一定しており、生活用水はほぼ満たされる、ということになります。
人口増加といった特別な事情が発生しない限り、使った水を繰り返し使うわけですから、家庭用水の使用量の増加はリサイクル可能容量に中であれば十分対応できる。
もし、可能容量を超えたら自動的に節水制限を行い、「前回より使い過ぎています」と警告を発すれば済むことになる。
これがブリスベンをして、海水淡水化を実行しえない理由ではないかとおもうのですが。
「下水再生飲料水:清浄化水」の使用は住民投票にも表れるように、市民には嫌われます。
技術的、経済的に十分に清浄で安全な水が作れることは頭で分かっていても、感情的に拒否感が表れてしまいます。
そのために、水道管に直接流し込むという方法は出来ない相談になります。
ブリスベンのように大きな湖に一度放流して、湖水とまぜ、それから再取水して通常の浄水処理を経て供給される、という手続き的な処理がどうしても必要になります。
これによって心理的安堵感が生まれます。
同じように都市部に近接して大きな貯留湖を持つシドニーでは可能でしょう。
では、他の都市ではどうでしょうか。
ブリスベンで一度受けられてしまえば、再生飲料水はおそらく燎原の火のごとく普及していくのではないでしょうか。
「海水淡水化」は長くなってしまいました。
これで終わりますが、最後にもう一つ。
時のクインズランド州首相は、住民投票を実行しない決定を下した後、この下水から生み出された「再生飲料水」を自分で飲むというパフォーマンスをして、事業への理解を訴えたそうです。
そして、2,3カ月後、「家族との時間を大切にしたい」というなんだかかよく分からない名目で、突如、首相を辞任してしまいました。
54歳です。通常ならこれから本格的な政治活動を、というところ年齢です。
「下水を飲まされるのか」というバッシングに嫌気がさしたのであろうと噂されているようです。
その後をついで首相になった方は、この州にして始めての「女性首相」とのことです。
再生飲料水の喜悲劇といったところでしょうか。
逆浸透膜式については、下記のページが写真と図での解説で解りやすいです。
〇 [PDF]期待される膜利用水処理技術
★ http://www.toray.co.jp/ir/pdf/lib/lib_a083.pdf
注:
オーストラリア関係で出典を明記していないデータならびに記事は、日豪プレス2007年9月号「危機的水不足と残された解決策 スチュアート・カーン博士(NSW大学)」から引用しています。
<おわり>
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